句の意味・現代語訳

原文
秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ
日本語訳
秋の田のほとりにある仮小屋の、その屋根を葺いた苫の網み目が辛いので、私の衣の袖は露に濡れて行くばかりである。

句の作者

天智天皇(626~671)

第38代天皇です。舒明天皇の皇子(中大兄皇子)。持統天皇の父で光仁天皇の祖父。

平安時代の天皇の祖。藤原鎌足らと蘇我氏を倒し、大化の改新を実現。近江(現在の滋賀県)に都を開きました。

句の解説

収穫期の農作業にいそしむ田園の風景を詠んだ歌です。しかし、農作業のつらさという実感は薄く、晩秋のわびしい静寂さを美と捉えた歌です。藤原定家は言い表しがたい静寂の余情をこの歌が持っているとして、この歌を「幽玄体」の例としてあげています。幽玄体とは言外に奥深い情趣・余情のある歌体を指します。

この歌はもともと万葉集の作者不明歌で、万葉集には「秋田刈る仮庵を作り我がを居れば衣手寒く 露そ置きにける」(巻十・二一七八)とあります。その後、口伝えで伝わるうちに農作業の実感から離れ、歌詞も王朝人好みの言葉づかいとなり、さらに作者も天智天皇とされるようになったとされています。

句の語句語法

仮庵の庵は「かりほ」は「仮庵(かりいほ)」が縮まったもの。農作業のための粗末な仮小屋。「仮庵の庵」という言い方は同じ語を重ねて語調を整える用法。
苫をあらみ「苫(とま)」は菅(すげ)や茅(かや)で編んだ菰(こも)。平安後期から寂しさやわびしさを思わせる語としてよく用いられた。

「~(を)+形容詞の語幹+み」には原因理由を表す語法。「~が・・・なので」と訳す。
衣手衣の袖の衣の歌語。(和歌にだけ用いられる語)。
ぬれつつ「つつ」は反復・継続の意の接続助詞。本歌の文脈では「袖が次第に濡れていく経過とそのことへの感慨」を表す。

句の季節

季節

句の詠み上げ

YouTubeにアップされている、声楽家 根來加奈さんによる句の読みあげがオススメです。美しい発音とともに句を鑑賞できます。

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Coarse the rush-mat roof 
Sheltering the harvest-hut 
Of the autumn rice-field; 
And my sleeves are growing wet 
With the moisture dripping through.
coarse粗い
rush
hut小屋
moisture「進行形」で「露にぬれつつ」継続を示す。