句の意味・現代語訳

原文
忘らるる 身をば思はず ちかひてし 人の命の 惜しくもあるかな
日本語訳
あなたに忘れ去られる私自身については何とも思わない。ただ、(いつまでも私を愛してくれると)永遠の愛を神に誓ったあなたの命が、誓いを破った神罰を受けて失われることが惜しく思われてなりません。

句の作者

右近(生没年不詳)

右近(うこん)は、女流歌人として、平安時代中期に活躍しました。右近少将であった藤原季縄の娘で、醍醐天皇の皇后穏子に仕えた人物です。

句の語句語法

忘らるる「忘(わす)る」は下二段活用の動詞だが、旧式の四段活用として用いている。「るる」は受け身の助動詞の連体形で、「忘れ去られる」の意味。恋人「大和物語」によると藤原敦忠)に捨てられ、忘れられることを表す。
身をば思はず「身」は自分自身。「を」は、動作の対象を表す格助詞。「ば」は強意の係助詞「は」が「を」に接続して濁音化したもの。「ず」は打消の助動詞の連用形、または終止形。どちらとするかにより解釈は大きく異なる。連用形だと「自分を捨てた恋人に対する皮肉をこめた歌」という解釈となり、「あなたに忘れられた自分自身のことなど何とも思っていないが、私との誓いを裏切ったあなたにも神罰が下って死ぬことになるのは、惜しいことだ。」を意味する。終止形だと「別れても愛は永遠であることを伝えたかった歌」という解釈となり、「私のことは何とも思っていない。ただ気がかりなのは、ともに愛を誓ったあなたの命が神罰によって縮められはしないかと惜しまれてならない。」を意味する。大和物語によると、この歌に対する敦忠の返歌はなかった。
誓ひてし「て」は完了の助動詞「つ」の連用形で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形。「誓ひ」は、二人の愛を神仏に誓うこと。よって「以前、いつまでも君のことは忘れないと神に誓った」を意味する。
人の命の「人」は自分を捨てた相手のこと。「身」との対比で使用されている。「人の」の「の」は、連体修飾格の格助詞。「命の」の「の」は、主格の格助詞。
惜しくもあるかな「惜しく」は、天罰によって命が奪われることを惜しむ意味。相手に対する執着・未練があることを表す表現。「も」は、強意の係助詞。「かな」は、詠嘆の終助詞。

句の季節・部立

季節・部立

句の決まり字

決まり字「わすら」
わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな

句の語呂合わせ(覚え方)

語呂合わせ
わすらるる みをばおもはず ちかひてし
ひとのいのちの をしくもあるかな
覚え方忘らるる人の命
墓前で祈る男の子

句の出典

出典
拾遺集

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Though forgotten now, For myself I do not care: He, by oath, was pledged;-- And his life, who is forsworn, That is, ah! so pitiful.