句の意味・現代語訳

原文
吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ
日本語訳
吹くやいなや、秋の草木が しおれるので、なるほど山風を嵐というのであろう。

句の解説

草木を荒らす秋の山風。

「山風」という漢字二字を、一つに合わせると「嵐」 という一字になる、とする漢字遊びにもとづいた歌です。「古今集」の詞書に「是貞の親王の家の歌合せの歌」とあります。機知を重んじた詠みぶりが、歌合 の歌にふさわしいのでしょう。

このような文字遊び を詠んだ歌には、他に「雪降れば木毎に花ぞ咲きに けるいづれを梅とわきて折らまし」(「古今集」冬・ 三三七)という歌もあります。これは、「木」と「毎」を 合体すると、「梅」の一字になるという機知です。

機知のおもしろさは、それによって読み手の注意力が喚起されるということあります。「山風」「嵐」と いう言葉が続き、また掛詞で「荒し」が連想されて いくうちに、荒々しい山風に吹かれ草木がしおれて いく情景が想い起こされていきます。秋は、荒々しくも、 ものみな枯れ衰える時節なのです。

句の語句語法

吹くからに「からに」は複合の接続助詞で、するとす ぐに、の意。
しをるれば「しをる」は、草木が色あせて、ぐった りする様子。「ば」は、原因・理由を表す確定条件。むべなるほど、の意の副詞。ここでは「らむ」と呼応。上の句を根拠にして、 だから山風を嵐というのだろうと、理由を推量し、納得する気持ち。
山風山から吹き下ろす風。これが吹くと秋の風景が一変し て冬になるという気持ち。
嵐といふらむ「嵐」は「荒し」との掛調 秋の草木を荒らし枯れ させるので「嵐」というとする。「山」「風」のニ文字を合わせると「嵐」になる漢字遊びも試みられている。「らむ」は視界内の原因推量。

句の季節・部立

和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。

部立

句の作者

文屋康秀(9世紀半ば)

文屋朝康(歌番号37)の父。六歌仙の一人。三河国(愛知県東部)に赴任する際、小野小町(歌番号9)を任地に誘った歌の贈答が有名。

句の出典

出典
古今集
秋下(249)

句の詠み上げ

句の決まり字

決まり字

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
It is by its breath
That autumn’s leaves of trees and grass
Are wasted and driven.
So they call this mountain wind
The wild one, the destroyer.