句の意味・現代語訳
原文 わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふ |
現代語訳 どうしてよいか行きづまってしまっ たのだから、今となってはもう同じ ことだ。 難波にある澪標ではない が、身をつくしても会おうと思う。 |
句の解説
わが身を滅ぼしてもと思う激しい恋の情。「後撰集」の詞書に「事出できて後に、京極御息所にっかはしける」とあります。京極御息所は宇多天皇の女御で、 その寵愛も厚い人物でした。一方、元良親王は陽成天皇の皇子で、風流好みの多感な人物として名高く、逸話も多い人です。その二人の不義の恋の噂が世間にもれてしまった時 の元良親王の歌がこの句です。
不義の発覚に思い悩むが、どう考えても同じことなら、と窮した気持ちをふるいたたせ、わが身の破滅と引きかえに逢瀬を遂げようとします。「身を 尽くす」は、いわば社会的生命を失うぐらいの気持ちで、こうなったからには自らの恋情に殉じようという気持ちです。身の破滅の予感によって、恋する心はむしろ強められています。
句の語句語法
わびぬれば | 「わび」は上二段動詞「わぶ」の連用形で、物事が行きつま って悩み苦しむ気持ち。調書によれば、慰極ェどの不義の恋が露見して進退 きわまっていることをさす。 |
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今はた同じ | 「今」は、ことが露見した今となっては、 の意。「はた」は、また、の意の副詞。今の自分のありようは「身を尽くす」のと同 じとする。 |
難波なる | 「なり」は存在を表す助動詞。 |
みをつくし ても | 「濡標」と「身を尽くし」の掛詞。「澤標」は、船の航行の目印に立てられた旅 で、難波潟を印象づける名高い光景。「身を尽くす」はここでは、身を破滅させる意。 |
逢はむとぞ思ふ | 系「む」は、意志の助動詞。「思ふ」は、係助詞「ぞ」の結びで連体形。 |
句の季節・部立
和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。
部立 |
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恋 |
句の作者
元良親王(890〜943)
陽成天皇の皇子で、父帝の譲位後に生まれた。色好みの風流人として名高く、大和物語や今昔物語集に逸話が残る。
句の詠み上げ
句の決まり字
決まり字 |
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わび |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
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In this dire distress My life is meaningless. So we must meet now, Even though it costs my life In the Bay of Naniwa. |