句の意味・現代語訳

原文
たち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む
現代語訳
別れて因幡の国へ帰ったとしても、因幡の稲葉山の峰に生えている松ではないが、あなたが待っていると聞いたならば、すぐに帰ってこよう。

句の解説

地方への赴任を前に別れを惜しむ心を歌った句です。作者が稲葉国の地方官として赴任するのに際して、京都の人々と別れを惜しんだ歌です。

人々との別れを意味する「立ち別れいなば」の言葉を、赴任先である因幡国の「稲葉山」に掛けながら、その山に「生ふるまつ」と続けさらにその「松」に「待つ」をかけるところから、再び人との人間関係の内容に戻ってきます。表現上複雑な構成による歌です。

作者は「稲葉の山の峰に生ふる松」と赴任の地である稲葉国の風景を想像してみるものの、「待つとし聞かば今帰り来む」として、やはり都の人々と離れたい思いが切実となってくるという気持ちを句に込めました。掛詞の技法を表現の主軸として、京都やと都の人達への断ちがたい思いが強調されています。

句の語句語法

立ち別れ赴任のために京都の人々と別れるのである。作者は斉衡二(855)因幡国(現在の鳥取県)の守となる。
いなばの山因幡の国庁近くにある稲羽山。「住なば」と掛詞。
生ふる生えるの意。
まつとし聞かば「まつ」は上の文脈からは「松」、下の文脈からは「待つ」で続く掛詞。「し」は、強意の副助詞。「聞かば」は、仮定条件を現す。
今帰り来む「今」は、すぐにの意。人気があるからすぐ帰ってくることは不可能である。それを承知で「帰る」「来」というおなじような意味の語をかさねて、都への断ちがたい想いを強調している。「む」は、意志の助動詞。

句の季節・部立

和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。

部立
離別

句の作者

中納言行平(818~893)

在原行平。平成天皇の皇子阿保親王の子で、在原業平の異母兄。須磨に配流された際の、松風・村雨姉妹との恋の伝説は、謡曲「松風」の題材になりました。

句の詠み上げ

句の決まり字

決まり字
たち

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Though we are parted,
If on Mount Inaba’s peak
I should hear the sound
Of the pine trees growing there,I’ll come back again to you.