句の意味・現代語訳
原文 君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ |
現代語訳 あなたのために、春の野に出かけて行って、若菜を摘んでいる私の袖に、雪が次から次からと降りかかってくるのだ 。 |
句の解説
若菜を贈り相手の幸せを願う優しい心遣い。
古今集の詞書に「仁和の帝、皇子におましましける時に、人に若菜たまひける御歌」とあります。まだ即位する前の天皇が、誰かに若菜を送った時、それに添えた歌です。大切に思う相手の幸いを祈るべく若菜を贈ったのでしょう。贈った相手が恋人かどうかはもちろん、男女どちらであるかさえ分かりません。しかし、どちらにしても親しい関係であったことには違いありません。
若菜を贈る行為は、相手の長寿を願う優しい心から生まれたものであり「君がため」などからもそうした心づかいを読み取ることができます。また、若菜の緑と雪の白が対照的である点にも注目です。若菜・雪はそれぞれ春と冬の景物であり、ここでは二つの季節が交錯するかのようです。早春の色鮮やかな光景を取り込んでいます。
句の語句語法
君がため | この君は若菜を贈った相手。 |
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若菜摘む | 「若菜」は、春になって萌え出た食用・薬用の草の総称。せり、なずな、つくしの類。古くから新春にそれを食すると、邪気を祓い病気を除くと考えられていた。「古事記」に新春に若菜を積んでその年の豊穣を祝福するというのが見える。宮中でも「若菜の節会」として、新年の1月7日に七種の若菜を食して長寿を祈った。 |
わが衣手に | 「衣手」は、袖の歌語。 |
雪は降りつつ | 「つつ」は反復・継続の意の接続助詞。 |
句の季節・部立
和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。
部立 |
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春 |
句の作者
光孝天皇(830~887)
第58代天皇仁明天皇の皇子で宇多天皇の父。藤原基経に推され、陽成天皇の後を受けて即位しました。鷹狩りや相撲を好み、和歌・和琴に秀でていました。
句の詠み上げ
句の決まり字
決まり字 |
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きみがため は |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
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It is for your sake That I walk the fields in spring, Gathering green herbs, While my garment’s hanging sleeves Are speckled with falling snow. |