句の意味・現代語訳
原文 わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人には告げよ あまのつり舟 |
現代語訳 広い海原をたくさんの島々を目指して漕ぎ出してしまったと、京都にいる人に伝えておくれ、漁師の釣り船よ。 |
句の作者
小野篁(802~852)
当時の第一級の学者で、漢詩文にも優れた人材と言われています。歌に詠んだ流罪は2年後に許され、その後参議(中納言の次位)にまで昇進しました。
句の解説
流離に旅立つ身の悲しみと孤独と不安にかられた句と言えるでしょう。参議篁とは小野篁のことです。
篁は遣唐使の副使として選ばれましたが、渡唐に二度失敗した後、3度目は破損した船に乗せられることを嫌って一向に加わりませんでした。このことが嵯峨上皇の怒りを買い隠岐の島に流されることになったのです。承和五(838年)のことでした。「古今集」の詞書によれば「本紀伊国に流されてる時に船に乗りて入れてとて京なる人のもとにつかはしける」とあります。
隠岐へは摂津国の難波(大阪府大阪市)から瀬戸内海を通る船旅になりますが、これはその船旅を持って読んだ歌です。「人には告げよ海人の釣船」という釣り船への呼びかけは、呼びかける者の孤独な心を際立たせています。
茫洋とした海原に点々と浮かぶ島々、その中に点々として浮かぶ釣り船の風景が流離の悲しみと不安を印象づけています。
句の語句語法
わたのはら | 広い海原 |
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八十嶋かけて | 「八十(やそ)」は沢山の意。「かく」は、目がける・目指す、の意。 |
こぎいでぬと | 「ぬ」は完了の助動詞。まさに今漕ぎ出した、という気持ちである。「と」は引用の格助詞で、「わたの原…漕ぎ出でぬ」までが自分が伝えようとする言葉。 |
人には告げよ海人の釣り船 | 人は直接には”京なる人”を指すのだろうが、肉親や知人を含めて自分を知っている人全てをさすとも見られる。 「告げよ」は、釣り船を擬人化して呼びかけた言い方。「海女」や「釣り船」によって描写される風景自体、和歌では旅のわびしさを象徴している場合が少なくない。体言止め。 |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
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Over the wide sea Towards its many distant isles My ship sets sail. Will the fishing boats thronged here Proclaim my journey to the world? |