百人一首10番「これやこの…」（蝉丸）の意味と現代語訳

句の意味・現代語訳

原文
これやこの　行くも帰るも　別れては　知るも知らぬも　逢坂の関

現代語訳
これがあの、これから旅立つ人も帰る人も、知っている人も知らない人も、別れてはまた会うという逢坂の関なのですよ。

9世紀後半の人。盲目の琵琶の名手であったという伝説がありますが、その経歴は未詳。大阪の関跡付近には、蝉丸を祀った神社があります

会うは別れの始め思わせる逢坂関。「これやこの・・・逢坂の関」という名所旧跡を紹介します。言葉遣いを基本に、そこに、「行く」「帰る」、「知る」「知らぬ」、「別れる」「会う」の3組の対立をする語を配置し、しかもその全てを逢坂の関に収束させた表現です。

知っている人も知らない人も会っては別れ、別れたまた会うという逢坂の関はまさに人生縮図のようだというのでありましょうか。歌の背後に潜むそうした人生の認識が、ただの戯れ歌になるのをすんでのところでおし止めています。

中世の歌人たちはこの歌を、会うは別れの始めだとする「会者定離」という真理を読んだものとして理解したようです。あっては別れ、別れてはまた会うことを繰り返すのが人生のならいだという、仏教的な考えをこの歌から読み取ったのでしょう。

これやこの	これが噂に聞いているあの～という言い方。本句は「逢坂」の関に続き、その間に、「行くも帰るも・・・知るも知らぬも」という大阪の関の説明文が入り込んでいる構造になっている。
行くも帰るも	「行く」「帰る」は共に連体形で下に人を女補う。平安後期から寂しさやわびしさを思わせる語としてよく用いられた。
別れては	「ては」は、ここでは反復を表す。別れては逢い、逢っては別れることが繰り返されるというのである。
逢坂の関	山城國(京都府)と近江国(滋賀県)の境の関所。ここを超えると東国とされた。関所自体は早く廃止されたか、歌枕として読まれ続けた。「逢ふ」との掛詞として読まれることが多い。体言止め。