句の意味・現代語訳

原文
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
日本語訳
大空をふり仰いで遥か遠くを眺めると、今見ている月は、かつて奈良の春日にある三笠山の上に出ていた時と同じ月なのだなあ。

句の解説

『古今集』には、中国での長年の留学生活を終えて帰国する、その惜別の檻に月が美しく登ったのを見て読んだとあります。送別の宴に集まってくれた中国の友人たちを前に、漢詩ではなく、和歌を読み上げているのも、異国の友との別れがたい想いにも勝って故郷への思いが改めてこみ上げてくるということなのでしょう。

今仰ぎ見ているこの月は、かつて奈良で見たあの時と同じであったと感動を新たにしています。今大空に照り輝く月を眺めていると、過去と現在日本と中国という違いを超えて、万感が胸にこみ上げてきます。歳月の流れや我が人生の考えもひとしお。遣唐留学生として17歳で唐に渡ってから既に30年の歳月が流れていました。いよいよ帰国という時にこみ上げてくる望郷の思いは、同時にこれまでの自分の人生を顧みさせてもいるのでしょう。

句の作者

阿部仲麿(698~770)

正しくは(阿)部仲麻呂。遣唐留学生として渡唐。長年、玄宗皇帝に仕え、唐の代表的詩人である李白・王維らとも親交がありました。帰国を試みるが船が難破し断念。そのまま帰国せず、唐で亡くなりました。

語句語法

天の原大空。「原」は大きく広がっている様子を表す。
ふりさけ見れば「ふりさけ見る」は遠くを眺める。已然形に接続助詞「ば」がついて、確定条件。
衣手「春日」は現在の奈良公園から春日神社のあたり。本歌の「なり」は「~にある」との意味で「存在」を表す。

遣唐使の出発に際して、春日神社に旅の無事を祈ったとされ、『続日本紀』に中麿一行 と思われる遣唐使たちが祈願したという叙述も見える。
三笠の山春日神社後方の若草山と高円山との間にある山。
出でし月かも「し」は過去の助動詞の連体形。直接はかつて三笠の山の月を指すが、今降り仰いでいる月も重ねられていよう。「かも」は奈良時代によく用いられた詠嘆の終助詞。

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
When I look up at 
The wide-stretched plain of heaven, 
Is the moon the same 
That rose on Mount Mikasa 
In the land of Kasuga?