句の意味と現代語訳
原文 かささぎの わたせる橋におく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける |
日本語訳 かささぎ(鳥の一種)が翼を連ねて渡したという橋ー宮中の御箸に降りている霜が白いのを見ると、もう夜も更けてしまったのだった。 |
句の解説
冬の夜ふけの厳しい寒さを、宮中の御橋(階段)に降りた雪の白さによって捉えた歌です。
「かささぎの渡せる橋」を文字通り天の川に架かる橋として、夜空に星々が冴え冴えと輝く情景を選んだとする解釈もありますが、ここは通説に従って「宮中の御箸(みはし)を天上界の橋に見立てたもの」とします。
見立てはもともと漢詩特有の技法であり、ある事柄を別の事柄になぞらえることで、新しい視点から事実を捉え直す表現技法です。平安時代になって積極的に和歌に用いられるようになりました。ここでは宮中の御階を天ノ川に架かるかささぎの橋に見立てています。
地上の御階に霜の降りた風景が、中国的な七夕伝説をも取り込んで、冴えわたった星空と結びつき、幻想的な厳冬の夜更けの世界を描き出しています。
句の作者
中納言家持(718~785)
大伴家持(おおとものかやもち)。大友旅人の子供。36歌仙の一人で「万葉集」の編纂に関係したとされ、「万葉集」の中で最多473首が収録されています。
語句語法
かささぎの渡せる橋 | カササギはカラス科の鳥。中国の七夕伝説では翼を連ねて歌詞となり 、天ノ川にかかって織女(オリヒメ:七夕の物語のヒロインの事)を牽牛(ヒーロー)の元へ渡すとされた。 ここでは宮中の階(ハシ)をそれに見立てる。「宮中を天上界になぞられることは多く、「橋(ハシ)」と「階(ハシ)」が同音である所からも、この見立てができた。 |
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おく霜の白きを見れば | 霜が降りるのは深夜から未明にかけて。その白さが冬の厳しい寒さを感じさせる。 |
夜ぞ更けにける | 「けり」には今初めて気がついたという感動がこもる。霜の白さを見て、夜がふけたことに気がついたというのである。 |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
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When I look up at The wide-stretched plain of heaven, Is the moon the same That rose on Mount Mikasa In the land of Kasuga? |