句の意味・現代語訳
原文 あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む |
現代語訳 山鳥の尾の、その垂れ下がった尾が長々しいように、秋の長々しい夜をひとりで寝る事になるのだろうか。 |
句の作者
柿本人麻呂(7世紀後半~8世紀初頭)
持統天皇文武天皇に仕えた宮廷歌人とされるが詳細は不明。枕詞・序詞などの修辞技法を駆使した雄大な長歌・短歌を残した。万葉時代最大の歌人で後世「歌の聖(うたのひじり)」と称された。
句の解説
秋の夜長をひとり寝る恋のわびしさを表している。恋しい人に会えぬまま秋の夜長を一人孤独に過ごさねばならぬ悲しみを詠んだ歌である。この歌の勘どころは、山鳥の尾のその長さから秋の夜の長々しさに転ずる言葉の面白さにある。
山鳥は昼は雌雄が一緒にいるが夜になると別々に離れて、谷を隔てながら寝る習性があると考えられていた。よって、この歌では離れている夫婦や恋人が互いに慕い合うというような連想にたどり着く。序詞は、「の」の繰り返しの滑らかなリズムの中で、尾の長さを時間の長さに移行させるとともにそうした山鳥の習性を、山鳥ならぬ人間の恋の干渉につなげる働きを果たしている。この歌は『万葉集』では作者不明の歌であるが平安時代になると人麻呂の代表作とされた。
句の語句語法
あしびきの | 「山」にかかる枕詞。 |
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山鳥 | キジ科の鳥。 平安後期から寂しさやわびしさを思わせる語としてよく用いられた。 昼は 雌雄 一緒にいるが、夜は谷を隔てて別々に寝るとされ、ひとり寝の悲哀を表す歌の言葉となった。 |
しだり尾の | しだり尾は長く垂れ下がっている尾が長いのはオスで、ここは男のひとり寝の悲哀をかみしめている。 ここまでが序詞。 |
ながながし | 序詞と本旨のつなぎの部分。 上からは山鳥の尾の長い意で続き、下へは秋の夜が長い意で続く。 終止形を連体形のように用いて、「夜」に続けたと解する。 |
ひとりかもねむ | 自分に問いかける言い方。 ひとり寝のやるせなさという恋の孤独を象徴する表現。 |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
Oh, the foot-drawn trail Of the mountain pheasant`s tail Drooped like down-curved branch! Through this long, long-dragging night Must I lie in bed alone? |