句の意味・現代語訳

原文
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の衣 干すてふ 天の香具山
現代語訳
春が過ぎて夏が来てしまっているらしい。夏になると真っ白な衣を干すという天の香具山なのだから。

句の作者

持統天皇(645~702)

第41代天皇。天智天皇の皇女(天皇の娘)。天武天皇の皇后。皇太子だった実子草壁皇子がなくなったため自ら即位し、藤原京に遷都。孫の文武天皇に譲位しました。

句の解説

白と緑が鮮やかな初夏の到来を思わせる歌です。現在では分からなくなってしまったものの、夏になると香具山には衣が干されたようです。

本歌に描かれる香具山は、眼前に山の緑と布の白さの鮮やかな配色を際立てていますが、それとともにこの山が天井から降りてきたという神秘的な想像力も働いています。

句の語句語法

夏来にけらし「けらし」は「けるらし」が縮まった形。「らし」は、確実な根拠に基づいて客観的に推定する。ここでは「白妙の衣ほすてふ天の香具山」が推定の根拠。
白妙の「衣」にかかる枕詞。白妙は樹皮の繊維で織った純白の布。
ここにも純白のイメージがある。
「~
衣ほすてふ「てふ」は「といふ」の縮まった形。夏に衣を干す習慣があるという天の香具山と続く。
天の香具山奈良県橿原市の山。大和三山(香具山・畝傍山・耳成山)の一つ。天上から降りてきたという神話的な伝説から、「天の」を冠する。
持統天皇のいた藤原京から天の香具山を遠望しているのである。そしてこの句はこの語をもって体言止めで終わっている。

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

The spring has passed 
And the summer come again.
For the silk-white robes, 
So they say, are spread to dry 
On the “Mount of Heaven`s Perfume.”

句の読まれた場所

名前香具山
住所奈良県橿原市香具山
備考奈良県にある大和三山の一つ。香具山・畝傍山・耳成山がある。古くは神話伝説に山の由来がある。