百人一首30番 「有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり うきものはなし」(壬生忠岑)の意味と現代語訳
百人一首の30番、壬生忠岑の歌「有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり うきものはなし」の意味・現代語訳と解説です。
句の意味・現代語訳
原文 有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり うきものはなし |
日本語訳 有明の月は冷ややかで、つれなく見えた。冷たく薄情に思えた別れの時から、今でも夜明け前の暁ほど憂鬱で辛く感じるものはない。
|
句の作者
壬生忠岑(898〜920)
壬生忠岑(みぶのただみね)は、『古今集』撰者の一人で、三十六歌仙の一人。平安時代前期に歌人として活躍しました。壬生忠見の父でもあります。
句の語句語法
有明(ありあけ)の | 「有明」は、陰暦で16日以後月末にかけて、月の欠けと同時に月の入りが遅くなり、明け方まで空に残っている月のこと。あるいは、空に月が残ったまま夜が明けることを表す。「の」は、主格の格助詞、または連体修飾格という説もある。 |
---|
つれなく見えし | 「つれなく」は形容詞「つれなし」の連用形で、「冷淡だ・無情だ・平気だ」など現代と同様の意味で、「つれない」の意味を表す。「し」は、体験回想を表す過去の助動詞「き」の連体形で、過去の恋人(女性)との別れを回想しており、月の冷たさと別れた女性の冷たさを重ねている。なお、何がつれないのかは、「女性」「月」「両方」の三説ある。 |
---|
別れより | 「より」は時間の起点を表す格助詞で、「~の時から」という意味になり、現在までの時間の経過を表す。この場合の「別れ」には二説ある。1つ目は、後朝(きぬぎぬ)の別れ、すなわち共寝をして帰る朝の別れ。2つ目は、女性にふられて何もできなかった朝の別れ。 |
---|
暁(あかつき)ばかり | 「暁(あかつき)」は 「明時(あかとき)」が転じた言葉で、夜明け前の暗い状況を表す。「ばかり」は程度の副助詞で、後の「なし」と組み合わせて、「~ほど、~なものはない」を意味する。暁、曙(あけぼの)・東雲(しののめ)、朝ぼらけの順で明るくなる。 |
---|
憂(う)きものはなし | 「憂き」は形容詞「憂し」の連体形で、「つらい・憂鬱な」の意味。よって「夜明け前ほど、憂鬱な時間はない」を意味する。 |
---|
句の決まり字
決まり字「ありあ」 |
ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし |
句の語呂合わせ(覚え方)
語呂合わせ |
句 | ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし |
覚え方 | ありゃ、赤 何かに驚いて赤面する男の子 |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
Like the morning moon,
Cold, unpitying was my love.
Since that parting hour,
Nothing I dislike so much
As the breaking light of day. |