句の意味・現代語訳

原文
かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
日本語訳
わたしは「こんなに愛している」とさえあなたに伝えることができずにいるのですから、ましてや伊吹山の(燃えるような)さしも草ではないけれども、私の想いがそれほど(燃えるように映るさしも草ほど)までに激しく燃えていると、あなたはご存じないでしょう。

句の作者

藤原実方朝臣(998〜没年不詳)

藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)は、平安時代中期の歌人で、貴族。藤原師尹の孫として生まれ、中古三十六歌仙の一人でした。多くの女性と関係を持ったとされる人物で、宮中での不祥事をきっかけに陸奥守に命ぜられ、陸奥にて没しました。

句の語句語法

かくとだに「このように」の意味の副詞。「だに」は程度の軽いものをあげて重いものを類推させる副助詞で、「~すら・~さえ」の意味。「かく」は、この場合は「こんなに私があなたを恋しく思っている」ことを示す。「と」は、引用を表す格助詞。「このように(あなたをお慕いしていると)さえも」の意味を表す。
えやは伊吹の「え」は副詞「得(う)」の連体形で、反語の係助詞「やは」を従えて不可能の意味。「えやは~いふ」で「言うことができない」となるが、「いふ」を「伊吹(いぶき)」と掛ける掛詞になっている。また、「伊吹山」は現在の岐阜県と滋賀県の国境にある山。
えやはいぶきの「え」は、否定の語(ここでは「やは」)をともなって不可能を表す呼応の副詞。「やは」は、反語の係助詞。「えやはいふ」で、「言うことができない」の意味。「いぶき」は、掛詞で、上を受けて「言ふ(連体形)」、下にかかって「伊吹」を表す。伊吹は伊吹山のことだが、滋賀県と栃木県に同名の山があり、どれを指すかは不確定。
さしも草ヨモギのことで、お灸に使うもぐさの原料。また、伊吹山の名物。「伊吹のさしも草」は下の「さしも」に掛かる序詞。
さしもしらじな「さ」は指示の副詞で、そのようにの意味。「し」と「も」は強意の助詞。「な」は詠嘆の間投助詞、または終助詞で、「これほどまでとはご存知ないでしょう」の意味。
燃ゆる思ひを「燃えるようなこの想いを」というそのままの意味。「ひ」は「火」に掛けた掛詞、「さしも草」と「燃ゆる」と「火」は縁語。また、「思ひを」は前の「知らじな」にかかる倒置法。

句の季節・部立

季節・部立

句の出典

出典
後拾遺集

句の決まり字

決まり字
かく

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
That, 'tis as it is, How can I make known to her? So, she may n'er know That the love I feel for her Like Ibuki's moxa burns.