句の意味・現代語訳

原文
忘れじの ゆく末までは かたければ 今日をかぎりの いのちともがな
日本語訳
「いつまでも忘れまい」というあなたの言葉が、遠い未来まで変わらないことはないのでしょう。だから、いっそのこと(その言葉を聞いた)今日限りに命が尽きてしまえばよいのに。

句の作者

儀同三司母(生年不詳〜996)

儀同三司母(ぎどうさんしのはは)は、高階貴子(たかしなのきし)のこと。平安時代中期の歌人で、女房三十六歌仙の一人。藤原道隆の妻で、藤原伊周の母としても知られる人物です。

句の語句語法

忘れじの夫(藤原道隆)の言葉であり、主語は一人称であるため、「じ」は打消の意志の助動詞。「~ないつもりだ」の意味。よってこの場合の「忘れじ」は、男性から女性に「私(道隆)は、いつまでもあなた(貴子)を忘れない(あなたへの愛は変わらない)」と言葉を贈ったことを示す。「の」は、連体修飾格の格助詞で、「~という~」。
行く末(ゆくすえ)までは「行く末」は「未来・将来」の意味で、「まで」は、限度を表す副助詞。よって「将来いつまでも変わらないことは」を意味する。
難(かた)ければ「難しいので」の意味。形容詞「難し」の已然形「難け」+接続助詞「ば」で、順接の確定条件。「(~は)困難だから」の意味。この場合、道隆の言葉を信用することが難しいことを表す。
今日(けふ)を限りの「今日」は、道隆が「いつまでも忘れない」と言ってくれたその日を指す。「今日を最後に(死ぬ命)」という意味。
命ともがな「と」は結果を表す引用の格助詞、「もがな」は願望を示す終助詞で、「~であってほしい」の意味。よって「命であればよいなあ」を意味する。「新古今集」の詞書に、「中関白通ひそめ侍りけるころ」とあり、道隆が儀同三司母の屋敷に通いはじめた頃、つまり、新婚当初に詠まれた歌であることがわかる。

句の季節・部立

季節・部立

句の決まり字

決まり字「わすれ」
わすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな

句の語呂合わせ(覚え方)

語呂合わせ
わすれじの ゆくすゑまでは かたければ
けふをかぎりの いのちともがな
覚え方忘れじ今日を
日記に今日の出来事を書き留める女の子

句の出典

出典
新古今集

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
If "not to forget" Will for him in future years Be too difficult;-- It were well this very day That my life, ah me! should close.