句の意味・現代語訳

原文
ちぎりおきし させもが露を いのちにて あはれ今年の 秋もいぬめり
日本語訳
あなたがお約束くださった、よもぎの葉についた恵みの露のようなお言葉を、命と思って期待しておりましたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。

句の作者

藤原基俊(1060〜1142)

藤原基俊(ふじわらのもととし)は、平安時代後期の公卿であり、歌人でした。藤原道長のひ孫として生まれ、書家にに優れたものの官位に恵まれずに従五位上・左衛門佐に留まりました。

句の語句語法

契(ちぎ)りおきし「契りおき」は「約束しておく」を意味する動詞の連用形で、「おく」は露の縁語。「し」は、過去の助動詞「き」の連体形。よって「約束しておいた」の意味。千載集の詞書によると、この約束は、藤原基俊の息子の僧都光覚が、興福寺の維摩会の講師になれるよう藤原忠通(法性寺入道前の太政大臣)に頼み、忠通が「私に頼りなさい」と返答したことを示す。字余り。
させもが露「させも」は、さしも草で、平安時代の万能薬だったヨモギを示す。「露」は「恵みの露」の意味で、作者が息子のことを頼んだ藤原忠通が「任せておけ」と仄めかしたことを指す。
命にて「頼みにして」の意味。「て」は、逆接を表す接続助詞。
あはれ「ああ」、と感情をこめて洩らす感動詞。
秋もいぬめり「も」は、強意の係助詞。「往ぬ」は、ナ変動詞の終止形で「過ぎる」の意味。「めり」は婉曲を表す推量の助動詞。よって「秋も過ぎ去ってしまうことだろう」を意味する。
※維摩会の講師の任命権者は、藤原氏の氏の長者、忠通だったが、たびたび息子の光覚が入選できないので、基俊が恨み言を言ったところ、忠通は、「なほ頼め しめじが原の させも草 わが世の中に あらむ限りは」という歌の「しめじが原」という語を用いて、善処すると約束した。ところが、またしても光覚は入選を逃した。これは、その私怨を晴らすために贈られた歌。

句の季節・部立

季節・部立

句の出典

出典
千載集

句の決まり字

決まり字
ちぎりお

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Though your promise was "Like the dew on moxa plant" And, to me, was life; Yet, alas! the year has passed Even into autumn time.