句の意味・現代語訳

原文
思ひわび さてもいのちは あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり
日本語訳
つれない人との恋に思い悩んで、絶えてしまうかと思った命はどうにかあるものなのに、つらさに耐えきれずに流れ落ちてくるのは涙であったなぁ。

句の作者

道因法師(1090〜1182)

道因法師(どういんほうし)は、藤原敦頼(ふじわらのあつより)のこと。平安後期の歌人であり、僧でもありました。歌に対する執着心が非常に強い人物と伝えられています。

句の語句語法

思ひわび「思ふ」+「侘ぶ」で、つれない相手に思い悩む気持ちを表す心情語で、恋歌によく使われる。
さても「それでも」の意味。
命はあるものを「命は」の「は」は、他のものと区別する係助詞。「ものを」は逆接の接続助詞で、次の「涙」に対して「命は死なずに残っているのに」の意味を表す。
憂きに「憂き」はク活用の形容詞「憂し」の連体形で、想いが叶わない憂鬱を表す。「に」は、動作の対象を表す格助詞。
堪へぬは「堪へ」は「堪ふ」の未然形で「こらえる」の意味。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形、「は」は前の「命は」と同じく他と区別する係助詞で、よって「こらえられないのは」の意味。「命はある」と「たへぬは涙」を区別し、かつ対比している。
涙なりけり「なり」は断定の助動詞の連用形、「けり」は初めて気付いたことを表す詠嘆を表す終助詞で、「涙だったんだなあ」の意味を表す。

句の季節・部立

季節・部立

句の出典

出典
千載集

句の決まり字

決まり字
おも

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Though in deep distress (Through the cruel blow), my life Still is left to me:-- But my tears I can not keep; They can not my grief endure.