句の意味・現代語訳

原文
なげけとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
日本語訳
「嘆け」といって月が私に物思いをさせるのだろうか。いや、そうではない。本当は恋の悩みだというのに、まるで月のせいであるとばかりにこぼれ落ちる私の涙であるよ。

句の作者

西行法師(1118〜1190)

西行法師(さいぎょうほうし)は、俗名は佐藤義清。武士出身で、北面の武士として鳥羽院に仕えた過去を持つ人物です。その後出家し、歌人としても活躍しました。和歌は約2300首が伝わるとされ、勅撰集に多く入選したことで知られます。特に「新古今集」には入撰数第1位の94首が入選しました。歌集の「山家集」でも名を知られた人物です。

句の語句語法

嘆けとて格助詞「とて」は「~と言って」の意味。よって「月が私に嘆けと言って」を意味する。月を擬人化した表現。
月やはものを思はする「やは」は反語を表す複合の係助詞。「する」が結びで、「~するのだろうか?いやそうではない」と訳す。「する」は使役の助動詞「す」の連体形で「やは」の結び。よって「月が物思いにふけらせるのだろうか?いやそうではない」を意味する。三句切れ。
かこち顔なる「かこち顔」は恨みに思う顔つきのこと。「かこつ」からきた言葉で「かこつける」、つまり「他人(ここでは月)のせいにする」の意味。よって「(月に)恨みを持つかのような」の意味を表す形容動詞を示す。
わが涙かな「かな」は詠嘆の終助詞。

句の季節・部立

季節・部立

句の出典

出典
千載集

句の決まり字

決まり字
なげけ

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Is it then the moon That has made me sad, as though It had bade me grieve? Lifting up my troubled face,-- Ah! the tears, the (mournful) tears!