句の意味・現代語訳
原文 今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな |
現代語訳 今すぐに来ようとあの人が言ってきたばっかりに、九月の夜長を待ち続けているうちに有明の月が出てきてしまったことだ。 |
句の解説
来ない男のために夜通し待ち続けた恨み。作者は男であるが、女の立場に立って詠んだ歌です。代謝(他人にかわって歌や詩を作ること)の一種です。
相手の男が 「今来む」と言ってきたので、女は、折からの秋の夜長なのに、今か今かと待ち続けて、明け方になって有明の月が出てしまったというのです。有明の月が出る時分は、ふつうは男が帰っていく時間帯です。 「長月の有明の月を待ち出でつるかな」とは言っても、男の来訪を待ち続けていおり、結果として月を待つことになってしまったというのです。
夏の短夜に対して、秋は夜が長い。長い夜が 一明けはじめて、しらじらと空に残る月の姿は、裏切られ待ちくたびれた女の心と重なっているのでしょう。
句の語句語法
今来むと | 「今」 は、待つ側である女の立場からの言い方。「む」は、意 志の助動詞。 |
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言ひしばかりに | 「し」は、過去の助動 詞「き」の連体形。ここでは、男がすぐに行くと言っ てきたことをいう。「ばかり」は限定の副助詞。
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長月 | 陰暦の九月。九月は晩秋で、夜は特に長い。有 明の月 十六日以降の、夜明け方になっても空に残っ ている月。 |
待ち出でつるかな | 「待ち」の主語は自分、 「出で」の主語は月。男の来訪を待っているうちに月 が出てしまったという 関係を疑縮 していった表現。 |
句の季節・部立
和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。
部立 |
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恋 |
句の作者
素性法師(9世紀後半〜10世紀初頭)
九世紀後半から十世紀初頭の人。僧正遍照(12)の子。 三シ仙の一人。温和天皇に仕えた後、父に命じられて出家し、野の雲林院に住みました。
句の詠み上げ
句の決まり字
決まり字 |
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あり |
句の英訳
百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。
英訳 |
Just because she said, In a moment I will come, I’ve awaited her Until the moon of daybreak, In the long month, has appeared. |