句の意味・現代語訳

原文
陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れそめにし われならなくに
現代語訳
陸奥のしのぶもじずりの乱れ模様のように、ほかの誰のせいで乱れ始めてしまったのか。私のせいではないのに・・・。ほかならぬあなたのせいなのですよ。

句の解説

恋してはならぬ恋に屈折し乱れる心。陸奥のしのぶもぢずりの乱れ模様に、恋に動揺する心を託した歌です。都から遠く離れた土地から産出される素朴な乱れ模様が「しのぶ(忍)」の語の響きと結びついて、初々しい忍ぶ恋を想像させます。

「忍ぶ恋」はこの時代の恋歌の重要な類型の一つであり、恋してはならない高貴な人や人妻への声を選んだ使われ方が多い特徴があります。この句では「誰ゆゑに」「われならなくに」という屈折した物言いが、今まで経験したこともなかった恋の心の乱れに戸惑う男の心の有り様を表しています。

この歌は伊勢物語の初段にも引かれています。元服直後の若い男が古都奈良の春日の里で、偶然にも美しい姉妹を垣間見た時の心の動揺を語る歌となっているのです。

句の語句語法

陸奥東北地方の東半分。
しのぶもぢずりもぢずり」は、現在の福島県信夫地方から産出された、乱れ模様のすり衣。摺り衣は忍草の茎や葉の汁を擦り付けて染めた衣のこと。「しのぶずり」とも言われる。「しのぶもぢずり」とも言われるのは産地が忍だからとも、擦りつけるのが忍草だからとも。ここまでが序詞。
誰ゆゑに誰のせいで~したのか。元々「誰ゆえにか」とあるべきところ。
乱れそめにしぞ「そめ」は「初め」。「染め」をも響かせる。「乱れ」「染め」は「もじずり」の縁語。
われならなくに私のせいではないのに。ほかならぬあなたのせいで、の真意を込める。「~なくに」は、~ではないのに、の意。意味上、上に続く。倒置法。

句の季節・部立

和歌を季節等のテーマ別に分類したもの。

部立

句の作者

河原左大臣(822~895)

源融。嵯峨天皇の皇子であるものの、臣籍に降下した人物です。次邸河原院に奥州塩釜を模した庭を造るなど、風雅を好みました。宇治の別荘は後に平等院となりました。

句の詠み上げ

句の決まり字

決まり字
みち

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Like Michinoku prints
Of the tangled leaves of ferns,
It is because of you
That I have become confused;But my love for you remains.