句の意味・現代語訳

原文
あふことの たえてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
日本語訳
もしあなたと私が逢うことが絶対にないならば、かえってあの人のつれない様子も、私の身の辛い運命もこんなに恨むことはないのに。

句の作者

中納言朝忠(910〜966)

中納言朝忠(ちゅうなごんあさただ)は、藤原朝忠(ふじわらのあさただ)のこと。平安時代中期の公卿で、三十六歌仙の一人に数えられる歌人でした。藤原定方の五男として生まれ、官位は三位・中納言、小倉百人一首では中納言朝忠と称されます。笙の名手としても知られました。

句の語句語法

逢ふことの男女関係になること。この場合、作者個人の男女関係(あの人との関係がないならば~)とする説と、男女関係の存在自体(男女関係がこの世に存在しないならば~)とする説がある。「の」は、主格の格助詞。
絶えてしなくは「絶えて」は呼応の副詞で、下に打消の語を加えて強い否定「絶対に~しない」を表す。「し」は強意の間投助詞、または副助詞。「なく」は、ク活用の形容詞で、係助詞「は」をともなって、「なくは」となり、「~ないならば」という反実仮想を表す。反実仮想とは、現実とは違う状況を思い描いて、結果を予想する文章。「男女関係がなくなって、しなくなったのは」ではなく、「男女関係が絶対にないならば~」の意味。
なかなかに副詞で、「かえって・むしろ」の意味。物事が中途半端なので、むしろ現状とは反対の方が良いという意味。
人をも身をも「人」は恋愛対象の女性のことで、「身」は自分自身。「も」は並列の係助詞で、「相手の不実も、自分の辛い運命も」という意味。
恨みざらまし「ざら」は打消の助動詞「ず」の未然形、「まし」は「もし~ならば、~のに」という反実仮想(現実には起こらなかったことを、もし起こればと想像する)の助動詞。この場合は、男女関係があるという事実に反すること、つまり、男女関係がない状態を仮定し、「男女関係がなければ、相手の女性の態度も、それに一喜一憂する情けない自分も、恨むことはしないだろうに」という想像を展開している。

句の季節・部立

季節・部立

句の出典

出典
拾遺集

句の決まり字

決まり字
おおこ

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
If a trysting time There should never be at all, I should not complain For myself (oft left forlorn), Or of her (in heartless mood).