句の意味・現代語訳

原文
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
日本語訳
世の中なんて、悲しみや辛さから逃れる道がないものだ。思いつめて(世俗から離れるべく)逃れてきた山の奥にも、鹿が悲しげに鳴く声が聞こえてくる。

句の作者

皇太后宮大夫俊成(1114〜1204)

皇太后宮大夫俊成(こうたいごうぐうのだいぶとしなり)は、藤原俊成(ふじわらのとしなり)のこと。平安時代後期から、鎌倉時代初期にかけての公卿であり、歌人でもありました。権中納言・藤原俊忠の子として生まれました。千載和歌集の撰者としても知られる人物で、家集である「長秋詠藻(ちょうしゅうえいそう)」を記した人物としても知られます。

句の語句語法

世の中よ「よ」は詠嘆の間投助詞。「というものは、ああ~」というイメージ。
道こそなけれ「道」は、方法・手段の意味。「こそ」は強意の係助詞で「なけれ」はク活用の形容詞「なし」の已然形でこその結び。よって「(悲しみを逃れる)方法などないものだ」の意味。二句切れ。
思ひ入(い)る本来「深く考えこむこと」を意味するが、「入る」は「入山する・隠遁する」と重ね合わされ、「隠棲しようと思い詰め、山に入る」の意味を示す。
山の奥にも俗世間から離れた場所。「に」は、場所を表す格助詞。「も」は、並列を表す係助詞。
鹿ぞ鳴くなる「ぞ」は強意の係助詞。「なる」は推定の助動詞「なる」の連体形で、「ぞ」の結び。よって「鹿が鳴いている」を意味する。牝鹿を慕う牡鹿が山の中で鳴いている風情は、哀れを誘い和歌では人気がある。

句の季節・部立

季節・部立

句の決まり字

決まり字「よのなかよ」
よのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる

句の語呂合わせ(覚え方)

語呂合わせ
よのなかよ みちこそなけれ おもひいる
やまのおくにも しかぞなくなる
覚え方世の中よ、山の奥
世間を離れて山奥で過ごす女の子

句の出典

出典
千載集

句の詠み上げ

句の英訳

百人一首の句の英訳です。英訳はClay MacCauley 版を使用しています。

英訳
Ah! within the world, Way of flight I find nowhere. I had thought to hide In the mountains' farthest depths; Yet e'en there the stag's cry sounds.